タンパク質修復のための遺伝子誘導メカニズムを解明
Takii R, Fujimoto M, Matsumoto M, Srivastava P, Katiyar A, Nakayama KI, and Nakai A. The pericentromeric protein shugoshin 2 cooperates with HSF1 in heat shock response and RNA Pol II recruitment. EMBO J. e102566, 2019
この度、細胞内の異常タンパク質を修復するための遺伝子誘導メカニズムを発見しました。これは、山口大学大学院医学系研究科医化学講座、瀧井良祐助教と中井彰教授らを中心とした研究グループが、九州大学生体防御医学研究所の松本雅記准教授、中山敬一教授らとの共同研究で得た成果です。
熱ショック応答は異常タンパク質を修復するための適応機構で、熱ショック転写因子HSF1によって制御されています。研究グループはこれまでにHSF1転写複合体の同定と解析を行ってきましたが、基本転写因子群やメディエーターなどの一般的な転写装置の同定には至っていませんでした。今回、マウス細胞を用いて、HSP70プロモーターDNAに結合したHSF1転写複合体の構成因子を質量分析により同定することで、転写装置の構成因子群に加え、染色体分配に関与するシュゴシン(SGO)を同定しました。そして、HSF1-Ser326のリン酸化がSGO2を引き寄せてHSP70転写の熱誘導を促進することを見出しました。さらに、SGO2の相互作用タンパク質の質量分析による解析から、Pol IIの主要な構成因子群を同定しました。そして、HSF1-SGO2-Pol IIの相互作用によるによるPol IIのリクルートとPIC形成の促進が、HSP70転写誘導に重要であることを明らかにしました。これらの相互作用は、熱ストレス条件下での細胞生存、およびプロテオスタシス容量の回復を促進しました。さらに、発熱レベルの温熱ストレス条件下での異常タンパク質の蓄積も抑制し、生理的な条件下でプロテオスタシス容量の維持に重要であることが分かりました。
以上の結果は、SGO2の間期における転写過程の役割を明らかにすると同時に、熱ショック応答、つまりタンパク質修復のための遺伝子の転写誘導にはSGO2を介するPol IIリクルートが重要であることを示します。さらに、この新規機構がタンパク質の凝集を病態とする神経変性疾患の治療ターゲットとなることを示唆します。